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東京地方裁判所 昭和62年(刑わ)209号 判決 1987年5月19日

本籍、住居(省略)

大野邦夫

小峰伍郎こと

加藤廣行

右の者に対する建造物侵入被告事件について、当裁判所は、検察官大竹健嗣、同開山憲一出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役六月に処する。

この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、児玉英三郎こと玉水秀藏、稲垣仁こと李仁恂、西川利久及び氏名不詳者四名と共謀のうえ、被告人、西川利久及び右氏名不詳者四名において、昭和六一年一〇月三〇日午前九時ころから同日午前九時五〇分ころまでの間に、東京都新宿区西新宿一丁目二二番二号新宿サンエービル一五階会議室の日本光電工業株式会社第三五回定時株主総会会場(同社代表取締役兼同株主総会議長荻野義夫)前の受付で、同社の株主でなく、同株主総会会場に入場する権限がないのに、被告人が同社の株主である小峰伍郎の氏名を、右西川利久が同社の株主である笹川一成の氏名を、右氏名不詳者四名が各々、同社の株主である児玉英三郎、稲垣仁、吉田征弘及び渡辺隆の各氏名を騙り、右各株主らになりすまして、順次、同株主総会への出席受付手続を済ませて同株主総会会場たる前記会議室に入場し、もつて、故なく右荻野義夫の看守する同会議室に侵入したものである。

(証拠の標目)

一  第一回(分離前及び分離後)及び第三回公判調書中の被告人の各供述部分

一  被告人の検察官(三通)及び司法警察員(昭和六二年一月二三日付及び同月二九日付)に対する各供述調書

一  第一回公判調書中の分離前の相被告人西川利久、同稲垣仁こと李仁恂及び同児玉英三郎こと玉水秀藏の各供述部分

一  西川利久の検察官(三通)及び司法警察員(六通)に対する各供述調書

一  稲垣仁こと李仁恂の検察官(謄本)及び司法警察員(二通)に対する各供述調書

一  児玉英三郎こと玉水秀藏の検察官(謄本)及び司法警察員に対する各供述調書

一  井上克文の検察官(二通)及び司法警察員に対する各供述調書

一  難波三郎の検察官及び司法警察員(昭和六一年一一月六日付)に対する各供述調書

一  荒井冨美枝の検察官(二通)及び司法警察員に対する各供述調書

一  小峰伍郎こと小泉幸雄の検察官及び司法警察員に対する各供述調書

一  原田冬樹、荒木末徳、齊藤修平、渡辺隆こと渡辺勝吉、吉田利郎、大場美奈子、清水忠夫、中村胤夫(謄本)、遠藤文次(謄本)及び尾抜文康の検察官に対する各供述調書

一  桐谷純、菅原喜代治、新川博、小野治一、加藤満、中西忠三、舞基士及び藤井國雄の司法警察員に対する各供述調書

一  検察官作成の昭和六二年二月一四日付(三通)及び同月二六日付(日本光電工業株式会社第三五回定時株主総会準備のため役員らに配付された資料に関するもの)各捜査報告書

一  司法警察員作成の昭和六一年一一月九日付、同年一二月八日付及び昭和六二年一月二六日付各捜査報告書

一  司法警察員作成の現行犯人逮捕手続書

一  司法警察員作成の実況見分調書

一  司法警察員作成の昭和六一年一二月二四日付差押調書

一  荻野義夫ら各作成の取締役会議事録及び第三五回定時株主総会議事録(いずれも謄本)

一  井上克文作成の第三五回定時株主総会議事録音テープを反訳した書面

一  荻野義夫作成の上申書

一  登記官戸田一晴作成の登記簿謄本

一  押収してある議決権行使書三通(昭和六二年押第二二一号の一ないし三)、確認票六通(同号の四ないし九)、新幹線指定券一枚(同号の一二)及び新幹線エコノミーきつぷ一枚(同号の一三)

(法令の適用)

被告人の判示所為は刑法六〇条、一三〇条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その所定刑期の範囲内で被告人を懲役六月に処し、情状により刑法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、児玉英三郎こと玉水秀藏を会長とするいわゆる総会屋グループの構成員である被告人が、右玉水らと共謀して、ほか五名の者と共々、株主でないのに、株主になりすまして株主総会会場に故なく侵入したという事案であるところ、本件犯行の意図が、本件株主総会の議事進行に関し、議長らを困惑させたり、自分たちの思惑と異なる議事進行を妨害するところにあつたことは明らかであるし、また、現実にもその結果として、株主でない被告人が本件株主総会で質問をしたり、株主でない共犯者が議事進行に関し本件株主総会の運営担当者に暴行を加えるなど、本件株主総会の正常な議事の進行を少なからず妨害したものであり、しかも、その犯行態様は、本件株主総会において、事前に株主に郵送した議決権行使書を持参した者を株主として本件株主総会会場への入場を許すほか、議決権行使書を持参しない者についても、別に設けた受付で確認票に住所及び氏名を記入させ、その記載が株主名簿と照合して合致した場合には、株主として会場への入場を許すというシステムを採用していることを悪用し、いわゆる株付けをして得ておいた株式名義を二重に利用したり、他の総会屋グループの者が得ておいた株式名義を利用したりするため、被告人らの間で事前に本件株主総会会場に入場する方法を調整したうえ、ある者は株主である共犯者の氏名を騙つて右確認票を記入し、またある者は、株主である共犯者の議決権行使書を持参してそれぞれ本件株主総会会場に入場し、更にまたある者は、あらかじめ他の総会屋から聞き出した株主の氏名を騙つて右確認票を記入して入場するなどしたものであつて、きわめて計画的かつ組織的なものであるうえ、被告人は、本件犯行前にも、右玉水らと行動を共にして、本件同様の方法により多数の株主総会会場への侵入行為を繰り返すなど、常習性も認められ、その犯情は悪質であると言わざるをえない。

しかしながら、他方、被告人は右グループ内での地位がそれほど高くなく、本件犯行にも従属的に加担したのみであつてその犯行計画の全貌を把握していたわけではないこと、本件犯行を反省し、今後は総会屋をやめて正業に精を出すことを誓約していること、同種前科はなく、服役したこともないこと、今後の更生については被告人の妻の協力もある程度期待できること等、被告人に有利な情状も多々認められるので、これらの諸事情を全て総合勘案し、被告人を主文掲記の懲役刑に処したうえ、その執行を猶予するのが相当であると思料した。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島田仁郎 裁判官 秋葉康弘 裁判官 吉村典晃)

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